週刊新潮1999年11月4日号
新句歌歳時記(多田道太郎)」より

生つたりな柿の蔕落(ほぞおち)する迄に

一  茶
    「ほぞ」は人間でいえばへその緒。柿が成り
    切って地におちる。昔のひと、今の受験生は
    縁起でもないというだろうけれど。でもこれ
    が自然の姿。「七番日記」。

柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺

正岡子規
    「柿くふて居れば」にすれば、と碧梧桐が評
    した。「もっともの説」と子規が答えた。でも
    「柿」と軽く出て「鐘」の重みをつけた原句が
    いい(吉村正一郎説)。天下に鳴る名句に天下
    の名批評。句碑は法隆寺境内。

やや膝をひらいて柿を剥いてゐる

関戸靖子
    若いひとならセクシーな姿を連想するかも。
    でもこれはくつろいだ女の美しさ。ものうく、
    されど苦でもなく働いている年輩の女性。乾
    柿づくりの風景。「聲」主宰。第三句集「春の
    舟」。

日付ある記憶のおぼろ盲ひたれば
舌でまさぐるたしかなるもの

和田大象
    桃栗三年柿八年。しかしわが家の柿は十五
    年以上も経ってやっと成った。食べた時の舌
    の喜び。うん、これだ。これがうまいんだ。
    「くらはんか」(九八年、北冬舎)。

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