母の実家は都下五日市の農家で、収穫した折々の農作物をお祖父さんが米俵にいれて我が家に送ってくれたのだが、その中に胡麻があった。黒胡麻である。 小学生だった私は空腹のおり、台所をあさって、たまたまその胡麻を口にしたのだった。それも、口いっぱいに頬ばって。
以来、病みつきである。少年期の記憶とでもいうのだろうか、いまでも周期的に胡麻を購入してきて、口いっぱいに頬ばって咀嚼する。 ちょうど自分の口が擂り鉢になったようなもので、時間をかけて口中の胡麻を噛みしめて擂り胡麻状態にしていくのである。
これをすると、何故アラビアンナイトの物語の呪文が開け米でもなく、開け大豆でもなく、開け胡麻、なのかがよくわかる。
和田萬の『黄金ごま』を頬ばって咀嚼すると、まさに貴重な金を口いっぱいに頬ばったかのような芳潤かつ豊潤な滋味が味蕾を覆いつくす。抽んでた逸品である。